映画『サンドラの週末』

カンヌ映画祭では受賞常連のベルギーダルデンヌ兄弟の新作。大作ではないですが、マリアン・コティアールの抑えた演技力で観る者を魅きつける。95分ですが密度が濃いので、もっと長く感じました。

自分の周りにも病気で長期休職して職場に戻ってきても、100%ではない人がいる。そういう人達の働く権利を奪っていいのか、どうなのか。自分さえ良ければ、目の前のお金があればいいのか。この映画の中でもでてくるように、少し残業すれば、その人がいなくても会社が回っていくのもまた事実。

細かいところも良くできている。中国との競争に負けそうな太陽光パネルのベンチャー企業。ボーナスはわずか1000ユーロ(14万円)で、これはブルーカラーの労働者が夏と冬にもらう一時金(バカンス資金)。それでも、移民で家族が多かったりすると、なかなかギブアップできない。試用期間の臨時工(アフリカからの移民?)は月給150ユーロっていっていた。
http://www.bitters.co.jp/sandra/intro.html

>体調不良から休職をしていたが、ようやく復職できることになった矢先の金曜日に、上司から解雇を言い渡されたサンドラ。解雇を免れる方法は、16人の同僚のうち過半数が自らのボーナスを諦めること。ボーナスをとるか、サンドラをとるか、月曜日の投票に向け、サンドラは家族に支えられながら、週末の二日間、同僚たちを説得に回る。

映画『ゼロの未来』

テリー・ギリアム監督の新作を幕張でやっていたので観に行ったのですが、体調万全ではなかったので睡魔に負けてしまいました。

未来世紀ブラジル」から30年、「12モンキーズ」から19年。この2作品と共通する要素が相当多いですが、全体としては、テリー・ギリアムの監督としての衰えを感じてしまいました。設定は無茶苦茶でも物語を推進するパワーとか、個々のエピソードをまとめる(かならずしも回収しなくてもいい)結束力が十分ではない。「未来世紀ブラジル」と「12モンキーズ」が金字塔的傑作なので、これを超えるのは無理なのかも。

それと、主人上のキャスティング。「イングロリアス・バスターズ」の悪役で一躍有名になったクリストフ・ワルツさん。俳優としての力量にはもちろん何の問題もないとおもうし、作品の設定上と実年齢が離れているわけでもないけれど、イマイチ(モロに)おじさんくさい。もう少し若くてチャーミングな人だったら作品の雰囲気も変わってしまっただろうけど、やっぱり主人公が魅力的でないとこういう作品ではやや辛い。

http://eiga.com/movie/81428/
未来世紀ブラジル」「12モンキーズ」の鬼才テリー・ギリアム監督が、「イングロリアス・バスターズ」「ジャンゴ 繋がれざる者」のクリストフ・ワルツを主演に描いたSFドラマ。コンピューターに支配された近未来を舞台に、謎めいた数式を解くため教会にこもって生きる孤独な天才技師の人生が、ある女性との出会いから変化していく様を描いた。世間になじめない天才コンピューター技師のコーエンは、「ゼロの定理」という謎めいた数式を解くことを義務付けられ、ひとり教会にこもって定理の解明を続ける。ある日、パーティに連れていたれたコーエンは、そこで魅力的な女性ベインスリーと出会う。自分と同じく天才と呼ばれるボブとの交流やベインスリーとの恋を通じて、コーエンは生きる意味を知っていくが……。

12モンキーズ」はテレビシリーズでリメイクされているのですね。でもブラピ&ブルースウィリスには敵わないだろうな。
http://12monkeys.jp/

映画『インヒアレント・ヴァイス』

ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)の新作、ギリギリで観てきました。予想外に面白く2時間半もあるのに眠くなるようなスキは与えない。それだけ良くできているということで、キャストも興味深い。前作「ザ・マスター」に続きホアキン・フェニックスが主演ですが、まるっきり別人。変装シーンが楽しそう。 

トマス・ピンチョンの小説『LAヴァイス』が原作。ちなみに小説の原題も「Inherent Vice」で、「マイアミ・バイス」みたいな安っぽい邦題にしてしまったのは大失敗だと思う。映画の中でもちゃんとこのタイトルについての説明があり、安易に『LAヴァイス』にしなかった映画会社の賢明な判断を評価したいです。

>原題の「inherent vice」は保険用語であり、「もともとの固有の性質として備わっている」という意味。例えば疲労亀裂などでものが破損した場合、それはもともとそれが固有の性質として破損したことになるので、保険会社は保険料の支払いを拒否することができる。本文中では「LAを船に見立てて、その海上保険契約を書くとしたら、地震源のサンアンドレアス断層は、その船に「固有の瑕疵」ということなる」と触れられている。「inherent vice」という言葉は同じポストモダン作家ウィリアム・ギャディスの小説『認識』にも出てくる。

『重力の虹』を買ったけど読んでいない・・・ピンチョンは難解なイメージあったけど、この小説はそうでもない。ワケが分からないのは確かですが、疾走感がある。あ、そうか。タランティーノの『パルプ・フィクション』に近いんだ。 

PTAの最近の作品は、同じくホアキン・フェニックス「ザ・マスター」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」がいずれも硬派で重苦しい作品だったので、そういう意味でも軽くて、良かったです。元カノを取り戻すことは出来ないけど、代わりに1つ善行も積むし後味も悪くない。

PTAは1970年生まれでまだ44歳。なのにこの映画の舞台になっている1960年代末のファッションや雰囲気を完璧に再現していると思う。これは、1970年代末から1980年代前半のポルノ業界の光と影にスポットライトを当てた作品「ブギー・ナイツ」でもそうだったけど。

あと、女性の顔にはかなりこだわりというか好みがあるのかも。しもぶくれ系が好み?今回のキャサリン・ウォーターストンは35歳には見えないな。


http://wwws.warnerbros.co.jp/inherent-vice/